室内温水プールに着いて、更衣室で清彦は、周りの目の気にすること無く脱ぎ始めたのだが、なんと、女性物のセパレートのビキニ水着だった。
確かに元々の清彦は、海水パンツもビキニパンツ派だったので説明がつくが、ブラは何だろう前にはお母さん特製Tシャツといってなと思ってると
「いいTシャツだろう。海水パンツを買いに行ったら俺の肥満体形に似合う物が無くてな、裁縫好きの母さんがビキニパンツ型の海水パンツとお揃いのTシャツを作ってくれたんだ」
と言って、首から手を入れ襟元からブラを見せつけてきた。

こっちは、恥ずかしくなり、俯いたまま
「男の下着なんて興味ないやい!」
興味があるどころか、見たくてしょうがないのに反論していた。

やっぱり、早く女性として認識できるにしたいのだが、生まれてから女性とつきあった事がないので、どうなるか心配でしかたない。

身体に合った名前にして、もう少し親密度を上げて、セックスまでは、いかないにしても、より以上に近い関係にしていれば、異性の性別を等価交換しても、この親密度は残り、恋人関係になるのではと考えた。
帰ったら、等価交換の詳細について、決行日も含めて、もっと計画の検討をしてみようと思う。

今日は、せっかく、室内温水プールに来ているんだから、しっかり、水着の双葉さんの姿を目に焼き付けて帰ろう。
清彦自身も自分を男性と思っているので、身体が触れ合わんばかりの水遊びをしたり、プールサイドに並んで座り、周りの女性客をも眺めたりして遊んだ。

プールから帰ってきた俊明は、これからの事をいろいろと考えていた。

今の環境が気に入っているのだが、自分に対しての違和感が非常にありすぎる。
計画では、双葉姿の清彦か、清彦姿の双葉さんのどちらかを、進捗状況に合わせて選択するつもりでいたのだが、選びきれずにいた。
清彦姿の双葉さんのおかげて、極めて少ないが、双葉さん関連の女友達と話せれるようになってきている。ここで、異性の性別概念の等価交換すると関係が崩れる気がして不安なのだ。

やはり、プールで考えた通り、当面の違和感である名前の等価交換を実施するのが最善ではないということでまとまった。

もし儀式をするならば、以前の事もあり、2日程身動きが取れないと思われるので、翌々週の月曜日が祝日である連休初めの金曜日の深夜に始める事にした。

それまでに、また、材料収集と幾何学模様文字翻訳と呪文楽譜作りを始めた。

清彦姿の双葉さんの髪の毛に関しては、以前に比べて多少話せるまでになっており、簡単に入手でき、双葉姿の清彦も親友なだけあって、あっさり手に入った。
周りの人には決行日の連休中は親元に帰ってるからと、それとなく言っておき、準備を整えた。

決行日の夜になり誰も邪魔が入らないように遮光カーテンを念入りに確認し携帯電話の電源をオフにした。
儀式に必要な幾何学的な模様文字と呪文の楽譜はパソコンで印刷し、midi再生して最後の呪文朗読の最終チェックをした。
以前にやっただけにスムーズにできた。

・・・・

清彦と双葉さんの名前である概念の等価交換儀式を開始した。念を込めての呪文も間違いなく言えた。前の時以上に長く何の音沙汰もなく感じ今度は失敗かと思っていたら、急に幾何学模様の文字が紙から外れて空中に浮遊し眩い閃光を放って消えた。
念を込めて読み上げてるだけなのに、またもや動く事さえ困難な状態で、息も絶え絶えの状態になり、その場に倒れ込むように気絶するかのように眠ってしまった。

・・・・

今回は、翌晩に目が覚めた。2回目であるだけに慣れたのか、24時間程の眠りでよかったようだが、全身の疲れとしては、前以上に感じた。

とりあえず、携帯電話の電源を入れて、電話帳を見たら、清彦の名前が無くなっており、もしやと思って、双葉の名前も探したが、無い。
え?と思って、アイウエオ順にソートして、確認すると、「か」行欄に「清日子」とあり、もしやと思い「は」行欄を確認すると「歩多繁」とあった。
電話番号は、うろ覚えだが、歩多繁は、元清彦のものであったので、性別の概念に合わせて、名前の漢字が変わったらしい。

おもしろい状態になったものだと感心した。


翌朝になると、やっぱり、全身筋肉痛のような痛みで何も動けずに残りの休日を寝床で過ごした。

休みの最終日になると多少痛みが軽減していたのだが、そのまま寝床で体力の回復を待った。

夜頃に状況を知りたくなり、明日まで待てず、元清彦であろうと思われる歩多繁に連絡してみる事にした。

「もしもし、フタバ、俊明だけど」
「おっ!親元から帰ってきたのか。また重労働を押し付けられて、全身筋肉痛とかになってるんじゃないか?」
「よくわかるな。そうなんだ。明日は背中を叩かないでくれよ!」
「ああwわかったwわかったw。」笑いながら答えていた。
「また映画のチケットが無料で入ったんだけど行くか? ただし恋愛映画なんだが・・・」
「恋愛映画なら、男の俺より、女と行けよ!そうだ、清日子さんでも誘えよ!」
「まだ、そんな仲じゃないから、フタバを誘ったんだが、行かないなら捨てるよ」
「わかった。一緒に行ってやるよ。」
「行ってくれるか。ありがとう。体中が痛いんで、もう寝るよ。じゃあ明日な」
「わかった」
電話が切れた。

やはり、二人の名前が入れ替わってるようだ。これで、姿に合わせた名前になってて、嬉しくてたまらなかった。

なぜか翌朝になり、なんとか全身の痛みが引いていた。
急いで身支度をして、学校に行ったのだ。早く、どういう状況になってるか、把握したくなり、講義室に走り込んだ。

名前の呼称の変化じゃ、何も変わった様子はなく、いつもと同じで、名前が明らかに変わったにも関わらず、皆の態度も普通そのものだった。

俺のした事は、徒労に終わったのか・・・
とりあえず、自分だけだが、見た目に合わせて名前が呼べるので、間違えて名前を呼ぶ事が無くなったのだから、良しとしようと思い込むことにした。


「歩多繁、昨日言ってた映画の話なんだが、今夜7時上映だけど、いいか」
実際のところ、この映画鑑賞券は、先にお金を出して買っておいたものだ。
「丁度、暇だから行ってもいいが、恋愛映画とか言ってたが、タイトルは何だ?」
「映画のタイトルは、分からないんだが、それでもいいだろぉ」
映画館で直接に買った物で、値段と上映日時と映画館名以外、何も記載されてない鑑賞券を見せた。これは、映画のタイトルが知れると行きたがらないと可能性があると思ったので、そういう鑑賞券を入手したのだ。
「何が放映されているか、わからないのか。まあ、無料券なら、しかたないな。付き合うよ」
俺は、心の中で嬉しくてバンザイをしていた。

放映させる映画のタイトルはどうでもよかった。恋愛映画にしてあるのは、もしかして男女の関係に近い所まで行けるかもと思ったからだ。ただし周囲的には男同士の関係だが、そうなったら異性の性別概念を等価交換すればいいとさえ思っていた。

それでも二人揃って歩くだけでも嬉しいし、名前も歩多繁(フタバ)と呼び捨てできるし、本物の双葉さんと一緒にいるようで、これだけでも自分だけの認識でしかないが楽しかった。

二人で恋愛映画を観終わったてから、多少雰囲気が良くなるかと思ってたのだが、歩多繁自身は自分が男であると思っているので、そのような感じにならなかった。

「俊明、奢って貰って、こんな事を言うのは何だが、やっぱり、この映画は女と見た方がいいぞ! 何だか、モヤモヤしてきたよ。今日は、センズリでもして寝るわ」
「そうか、やっぱり、そうだよね。」
そう言って、歩多繁は自宅に帰ってしまった。

今回の儀式は徒労に終わり失敗したと再認識して落胆した。



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