自分の寝室に入ると、異質にピンク色に染まっているのだ。

ピンクの絨毯。ピンクのカーテン。ピンクの布団にピンク地のベット。ピンクのタンス。
驚きのあまり、腰砕けになった。

ハンガーラックを見ると女性物の洋服が、ずらっと並んでおり、タンスの中に至っては、モデルハウスのように綺麗に整頓されて、下着やタオルや小物があった。
入り口近くで分からなかったが、ドレッサーがあるではないか。ドレッサーには使い方の分からないような化粧品が、ずらりと並んでいた。

もう、何が何だか分からない中、驚きのあまり喉がカラカラに乾いてるのに気が付き、キッチンに行ったら、無かった筈の電子レンジやオーブン等の料理に必要と思われる器具が所せましと置いてあった。
冷蔵庫も大型になっており、開けて見ると食材が多量に入っていた。
買った覚えの無い食器棚を見ると豪華な食器と、料理本が並んでいるではないか。

喉が乾いているのも忘れ、そのまま、その場にペタリと座り込み、この様子をボーっとかなり長い時間眺めていた。


フローリングの床に直にお尻を付けて、女の子座りをしていたものだから寒気で我に返った。
気が付くと、深夜の2時を回っていた。

今まで考えてた事が徒労に終わっていたと確信したが、俊亜季として料理が多分上手に出来て、お化粧も出来ないといけないらしい。
何の知識もない俺に出来るのか、不安になった。

身体が冷えたので、お風呂場にいったら、ここでも愕然とした。
シャンプーが出来るような大きな流しのついたドレッサーがここにもあった。歯ブラシもマグカップも変わっていたが、些細な事では、もう驚かなくなっていた。

湯船にお湯を貯めている間に、替えの下着と寝巻を取りに寝室に行ったがパジャマが無い。よく探してみるとピンクのスケスケのネグリジェがあった。
これを着るんだろうな・・・
代わりに寝巻になりそうな物を探したが無いので裸で寝るよりは、いいだろうと自分に強制納得させた。

湯船につかり、自分を観察してみると、男であり、以前の俊明本人である事に間違いは無かったが、脇毛と脛毛といった無駄毛が無かった。
歩多繁(フタバ)の家では、フタバの存在が気になって自分自身を見ていなかったようだった。


翌朝7時半頃に自然と目が覚めた。よく眠ったという意識はないが眠くは無い。
洋服の着方が分からないので、あれこれと悩みながら何とか着て、時間を見ると8時過ぎになっていたので、昨日食べなかった、おにぎりを急いで食べて歯磨きし出発の準備が整ったと思ったが・・・
お化粧をするのを忘れており、仕方ないので口紅だけして学校に行った。

もう、鬱状態に達している自分に、言い聞かせながら今日の教科の講義室に入ったら、昨日お手洗いに連れて行ってくれた若葉がいたので、駆け寄った。

「若葉、おはよう」
「俊亜季、おはよっ。あれ? またスッピンね。あんたはスッピンでも綺麗だからいいけど、お肌に悪いわよ。ちゃんと化粧水で手入れしてるの?」
「あはw 今日も寝坊しちゃって・・・」
何だか、昔から友達のように、他愛のない会話を続けていた。


いつの間にか、時間を忘れて、長く若葉と一緒になって喋っていたが、周りの様子が急に少し静かになった。講義開始時間になり、先生が来るのを待っているようだ。
「そういえば、この講義、歩多繁(フタバ)君は、選択してないから、ずっと私と一緒に居たんだね」
若葉が思いだしたように言ったので、ふと気付いた。俺も、お喋りに無中になって忘れていたようだ。
歩多繁も清彦もこの講義を取っていないのを思い出した時に、急に妙な違和感が襲い背筋がピクッとなった。

何で、普通に女の子と話が出来ているんだろうか・・・
俺は女の子と接する事が生まれてから、ほとんど無く、免疫が無い筈だった。
あまりにも変わりすぎる現実に戸惑い、等価交換儀式で性別概念の交換は、ファクターが大きいんだろうか・・・
帰ったら、また祖父の残した資料を検証しなくてはならないと思った。

そう言えば、先生が中々来ない。20分程して先生が焦ったように来たので、皆は「後少しで自然休講になったのにぃ」と小さくブーイングし騒いだ。
「研究が山場に来ていたので遅れてすまない。今日は講義を休講としたいんだがいいかな」
みんな一斉に「はい!いいです。」と声を合わせたかのように返事し、小さく「やったー」とか「うれしい」のような声が聞こえてきた。

「皆、ありがとう。じゃあ研究が残ってるんで、すまない」
先生はそう言って慌てて出て行った。普通は教授ともなると助手やゼミの生徒に代理で伝言させるのに、何でも好意的とらえる律義な優しい先生だ。

「俊亜季、これからどうする?」と若葉が聞いてきた。
歩多繁(フタバ)は、今講義中だし、時間が余ってしまった。
「どうしようか?」
「じゃあ、学校近くに新しい喫茶店が出来たんで、行ってみない?」
「うん、行く」
また、他愛のない会話をしながら、その喫茶店に向かった。

喫茶店で、ここぞとばかり男性では恥ずかしくて注文出来ないチョコレートパフェを食べながら、若葉とお喋りを続けた。

エッチな方向に話がなってしまい、思わず昨日のロストバージンの話を誘導尋問されて話してしまって、顔か耳まで真っ赤ににして下を俯いて、若葉の顔も、何も見れずにいた。
「へぇ~やったじゃない! やっと大人への階段を一歩進んだね~。」
「・・・・・」
おれは、何も答えれなかった。
「避妊は、ちゃんとした?初めてでも危険なのよ」
「うん、安全日だったから・・・」
「生でやったの?安全日を信じちゃダメよぉ。歩多繁(フタバ)君は男のくせに用意してなかったんだ。今度会ったら、とっちめないとね」
「フタバは、悪くないの急な話だったから・・・」
「なんだか、妬けるねぇ。で、初めて感想は、どうだったよぉ~教えてよ~ww」
「・・・・・」
俺は、また、それ以上に一段と真っ赤ににして俯いてしまった。
「まあ、いいわ。へぇ~~・・・・・」
若葉は何か納得したかのように薄笑いをして見つめていた。

「ねぇ、この間アメリカの留学生の女の子を私のうちでホームステイを受け入れたじゃない。その時に女性用の避妊具をお土産で貰ったんだけど使って見る?」
「女性用ってあるの?」
「ピルとか有名なんだけど、その留学生は製薬会社の開発責任者のお嬢様でね、新開発製品を貰ったんだけどね。私は怖くて使ってないの」
「へぇ~そんなのがあるんだ。ちょっと、興味あるなぁ。見てみたいなぁ」
女の子の秘密が見られるようで、興味が湧いたのだ。
「興味があるんだったら、今夜にでも、俊亜季の家に持っていくよ」
「いいの? でも、私ん家は知らないでしょぉ」
「あら、何寝ぼけてるの。何度も行ってるじゃない。」
「あっ、そうだったね」
うちに来た事を知らないのだが、ここは、話を合わせておいた。
「あーーっ!もうこんな時間。次の講義が始まるから行きましょ」
若葉に言われて、急いで学校に戻った。

次の教科の講義室に入ると清彦の横に立って、女の子数人を前に歩多繁(フタバ)が何やら怒ったように叫んでいた。
「お前ら、いい加減にしろ!1時限目からもそうだが、何度も言わせるな!清彦は病み上がり何だぞ!そっとしといてやれよ!」
清彦の前には、山のようなお見舞いグッツが置いてあった。たぶん、清彦の気を引こうと女の子達が押し寄せてきたのだろう。
自分も、男の時に、あんなにもてたかったなぁと思う反面、迷惑なんだろうなぁと思って、少しの間、静観してた。
フタバの迫力に負けたのか、女の子達は、隅の席にブツブツ言いながら、去って行った。

若葉と俺は、その2人のそばに行った。
「俊亜季さん、来たんですね。歩多繁と一緒に居ていいかい。」
「いいよ。清彦さんも大変ね」
俺は、極僅かではあるが、もてている妬みから少し嫌みも込めて言ってしまった。
「じゃあ4人で、一緒に居ましょうか」
若葉が提案した。
「そうか、俊亜季も若葉も彼氏が居るから、皆から妬まれないなww」
俺は、えっ?と思った。若葉に彼氏が居たことを知らなかった。
「若葉の彼氏って、あたしと会った事、あったのかなあ?」
恐る恐る、若葉に聞いた。
「何言ってんのよ。前にも会っている・・・あれ・・・おかしいな・・・ごめん、今度会わせてあげる」
若葉は不思議そうに首を横にしながらそう言った。そうか、元双葉さんの交友では会っているが俺とは会って無いんだ。

講義も終わり4人一緒に食堂でランチを食べていると
「また、素うどんを食べてるの? 栄養偏るよ! そうだ!料理が得意な俊亜季にお弁当を作って貰えばいいじゃない。うんグッドアイディアだ」
3人がA定食で、歩多繁が一人だけで、うどんを食べていたので、若葉が提案した。
「今月の小遣いがピンチなんで、そうしてくれると助かるけど、いいのかなあ?」
「ねぇいいじゃない。俊亜季は昔から料理が得意なんだから、いいよね」
「うん、いいよ」
俺は、話の流れから断る事ができず、不安そうに答えた。
「俊亜季、どうしたの?不安そうじゃない。そっかぁ、メニューで悩んでるんだね。オーソドックスな感じでいいのよ悩む事ないじゃん」
「うん・・・」
「そうだ、私、今夜は俊亜季の所に行くから、一緒にメニュー考えてあげようか?」
「お・・・お願いします」と俺は若葉に深々と礼をした。もの凄く不安だった。
「俺は?」ともの欲しそうに清彦がいった。
「清彦は一言、皆に聞こえるよに言えば、作って貰えるじゃん」と若葉が笑いながら言った。
「俺も俊亜季さんの料理が食べたい」
「俊亜季、俺からも清彦の分もお願いできないかな。」
「いいわよ」歩多繁に言われて、断る理由もなかったので、そう返事してしまった。1個も2個も変わらないと考えての返事だった。

学校から帰って、急いでキッチンにある料理本を抱えて、若葉が来る前に料理基礎の猛勉強した。



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