「いや~~~! 本当に、あたしの身体を通して、向こう側が見えるよぉ」

こんな、怪現象は、呪術によるもの以外は、考えられない。

「儀式を2回繰り返し続けていないのに、なぜ? 儀式と儀式の間隔が短かったのかな」

そうしている間にも、自分の身体が、痺れて半透明になり浸食される部分が広がっている。

 

「やっぱり、あたしの、存在が消えかかっているだぁ。なんとかしないと・・・」

焦って、先程まで散乱している祖父の残した資料を改めて片っぱしから調べ始めたが、どうする事も出来ず、時間が過ぎていった。

「ダメだ、分からない・・・・・」

凄く、焦っていた。

「もし、あたしの存在が消えた場合、どうなるんだろう?」

もしかして、祖父も同じように存在が消えて、行方不明となったんではないかと思い至ったのだった。
行方不明ということだったが、祖父が存在したという痕跡があるのだから、自分の存在の痕跡は、残るのではないかと思ったが、これらの呪術の儀式を行った資料が他人に渡ると、自分のやった悪行が公開されてしまう。
今から、処分しようにも間に合わない。どうしようかと、思ってるうちにも、身体の痺れと半透明な部分が広がっているのだ。

「そうだ、あの箱で、封印すればいい・・・」

そう思って、思い足を引きずりながら、急いでパソコンからハードディスクを抜き去り、儀式に使用した機材を小さく纏めて、祖父の残してくれた資料と魔術書の原本も一緒に箱に入れて、南京錠を止めた。
後は、封印するだけなのだが、何度も解析していた幾何学的模様文字が、蓋に記載されており、多少ではあるが、意味を理解していた。
それらの文字を正確に発音して、念を送った。

箱全体が、閃光を放ち、箱自体が急に重くなり動かなくなった。

既に、下半身が半透明になっていた。

そうだ、自分が居なくなると、皆が心配するかもしれないと思い、置手紙にこう書いた。

皆さんへ

すみません。少しの間、旅にでます。
探さないで下さい。
私がすべて悪いのです。
自分自身が納得できないの冷却してまいります。
自殺は考えていないの安心して下さい。
我儘を許して下さい。
ごめんなさい。

トシアキ

動かない足を何とか引きずって、玄関の扉近くに、手紙を目立つように置き、そのまま動く事が出来ず、フローリングの床に倒れるように座り込んだ。

お父さんやお母さんと喧嘩別れした事が悔やんだ。そんな事なら、もっと仲良くできる方法で別れたかった。頬に涙が伝って流れた。

既に肩や二の腕あたりも、半透明になっていた。
「そうだ、歩多繁と若葉にメールを出しておこう」
携帯電話を取り出して、先程の置手紙に多少手を加えて、遅れてメールが届くようにPCのメールアドレスに、あえて送信した。

もう既に、身体全体が半透明になり、足は、もう見えなくなっていた。

「こんな置手紙を書くと、お父さんやお母さんとの喧嘩で、家出したと思われうかなぁ。お父さん、ごめんなさい。お母さん、ごめんなさい」

大粒の涙を流して、泣いた。あたしの存在が消えるなんて、悪行の報いだろうなぁ。

最後に、誰かの声が聞きたかった。最愛の歩多繁の声が聞きたかった。でも、電話すると、心配するし・・・
せめて、お父さんやお母さんに謝りたかった。
無意識のうちに、お母さんの携帯に電話をしていた。

「俊亜季、今、どこに居るの?」
携帯電話の表示で俊亜季と分かったのか、いきなり大きな声が聞こえた。
「お母さん、ごめん・・・・・」
あたしは、いつの間にか、泣きながら電話に答えていた。
「おじいさんの家に戻ってるのね」
「う~うん、違うの。ごめん・・・・」
「俊亜季、俊亜季、どうしたの。返事しなさい!・・・・・・」

あたしは、最後は、喋る事ができず、お母さんの声を聞いて涙していたが、そのまま、意識が朦朧としてきて、大きな音を立てて携帯電話を床に落としていた。



←(17)目次(19)→